元気だけれど下痢をしている猫について
猫は基本的に下痢をしない動物です。
猫は軟便であっても異常である、という認識が正しいのですが、飼い主さんからは時々、
「この子はちいさなころから軟便になることが多くて、そういう子なんです。」
「一週間に1回は下痢や軟便があるけれど、昔からですし元気です。」
「年をとってきたから下痢になることも増えてきてきてますが元気ですよ。」
というお話を聞いてしまうことがあります。
獣医師としては、このコメントにはとても焦ります。
猫の下痢や軟便は、人や犬の下痢や軟便とは意味が違い、異常な状況だからです。
飼い主さんには「猫の便がゆるいこと」について、もっと重要なことだと受け止めてもらいたいです。
もちろん下痢や軟便が一時的な消化不良で終わることもありますが、繰り返す下痢は簡単な問題ではありません。
この記事では、元気な猫が下痢をしている場合、可能性のある原因や対応方法について詳しく解説していきます。
正常な猫の便
まず正常な猫の便とはどういうものなのかを知っておきましょう。
・色
正常な猫の便は一般的に濃い茶色です。
色が薄い場合(灰色や白っぽい色)は、消化器系に問題がある可能性があります。
非常に暗い色の便や黒っぽい便(タール状)は、消化管内で出血を示唆します。
・硬さ
正常な便は適度な硬さで、やや固めですが、簡単に形が崩れない程度です。
砂が大量についてしまうものは水分が多く、柔らかすぎます。
・形状
便は通常コロンとした形をしており、丸みを帯びた棒状です。
猫の体形に合わせたものが理想的で、非常に細長い便は腸のどこかが狭い可能性があります。
・匂い
基本的に猫の便は臭くても正常です。
ただし臭いだけでなく異常な匂いというものもあります。
腐敗臭や酸っぱい匂い、生臭い匂いがする場合は、正常ではありません。
・頻度
猫の便の頻度は、食事内容や個体差によりますが、1日に1回程度が一般的です。
食べる量や活動量により、便の回数は異なることがありますが、毎日3回以上の排便があるのであれば多いでしょう。
猫の消化器系と下痢
「元気で食欲があるから、時々下痢をしていても大丈夫だと思いました。」
と言われる飼い主さんが多いので、ここはひとつ、正しい知識を得ておきましょう。
猫は乾燥地帯から派生した動物のため、水分が体から抜けないように簡単に軟便や下痢にはなりません。
猫の消化器系は肉食性に特化しており、食物は速やかに消化されます。
そのため、通常であれば猫が下痢をすることは少ないと言えます。
そんな猫が下痢をしている、というのはたとえ元気で食欲があっても異常な状態なのです。
とはいえ、猫でも重篤な病気の問題ではなく下痢になることもあるので、その原因を先に解説します。
食事の変更と下痢
元気な猫でも、急激な食事の変更や新しい食べ物の導入によって、下痢が引き起こされることがあります。
猫は特に食べ物に敏感で、普段食べているフードを突然変更すると、消化器系に負担がかかり、腸内フローラが乱れることがあります。
特に、人間の食べ物や、猫にとって不適切な食材が含まれている場合、腸内のバランスが崩れやすく、下痢を引き起こします。
また、ドライフードからウェットフードへの変更や、逆にウェットフードからドライフードへの変更でも、下痢になることがあります。
食事の変更は、猫の消化器系に負担をかけ、下痢を引き起こす原因となることがあるため、変更は徐々に行い、猫の体調を観察することが大切です。
ストレスと下痢
ストレスは猫の体にも多大な影響を与えます。
元気そうに見える猫でも、環境の変化や飼い主の不在、引っ越し、新しいペットの導入などによってストレスを感じることがあります。
猫は非常に敏感な動物であり、ストレスがかかると消化器系にも影響を及ぼし、下痢を引き起こすことがあります。
ストレスが原因で下痢が起こる場合、吐き気、皮膚の舐め壊し、攻撃行動の増加、オシッコをトイレ以外でするなど他にもストレスサインが出ます。
我慢強い猫はストレスを感じても、体調が悪化していることを隠すことが多いため、便の状態だけに変化が出ることもあります。
ストレスを軽減するためには、猫がリラックスできる環境を整え、適切な遊びやおやつで気を紛らわせることが重要です。
病気による猫の下痢
次に猫が元気であっても病気が原因で下痢をしているケースを紹介します。
病気が原因の場合は一過性ではなく、小さなころから下痢を繰り返していたり、長期間にわたって便が安定しないことが多いです。
どんな原因で猫が慢性的に下痢をするのか、以下に解説します。
寄生虫や感染症による下痢
元気な猫が下痢をする場合、感染症や寄生虫が原因であることがあります。
特に外に出ることが多い猫の場合は、寄生虫に感染しやすく、特に回虫や条虫などの寄生虫が腸内に入り込むことがあります。
これらの寄生虫は、猫に軟便や下痢を起こすことがあります。
そして人にもうつるので危険です。
食物不耐症やアレルギー
猫は特定の食材に対してアレルギー反応を示すことがあります。
アレルギーも重症でなければ元気で食欲が保たれたままで下痢になります。
・甲状腺機能亢進症の下痢
高齢の猫で元気で食欲いっぱいで、下痢や嘔吐があるケースがあります。
この場合は甲状腺機能亢進症の可能性があります。
・元気もなく体重が減る猫の下痢
元気も食欲もなく体重も減っていく猫の下痢の原因は多岐にわたります。
すべての病気は末期的には下痢が出ることが多く、また癌や免疫異常でも下痢になり、どんどん痩せていきます。
痩せていくのは病気の証拠です。
猫が下痢になったらどうするの?
元気や食欲がなければすぐに受診しましょう。
元気や食欲があって、猫が下痢になってしまった時には、まず以下のことに気をつけてみましょう。
食事管理
①一時的な食事の制限(絶食)
軽度の下痢であれば、12〜24時間ほど食事を控えることで胃腸を休めるのが効果的な場合があります(ただし、子猫や高齢猫、持病のある猫は絶食しない方がよいので注意)。
水分補給は必須なので、新鮮な水をいつでも飲めるようにしておきましょう。
②消化に良いフードを与える
絶食後、すぐに通常量のフードで与えるのではなく、できればぬるま湯でふやかしたフードを少量あげてみましょう。
ただ、ふやかすと食べないという猫も多いので、それであればいつものフードを少量あげてみましょう。
もし今までに獣医師から低脂肪・低アレルギーの療法食(ヒルズ i/d、ロイヤルカナン消化器サポートなど)を処方されていたら、それを使用することもお勧めです。
ただし、初めてのフードを下痢の時に与えるのはリスクが高いので獣医師の指示に従いましょう。
ヒルズ 猫用 消化ケア【i/d】 2kg 療法食
※療法食は、必ずかかりつけの獣医師の診断と指導のもとで給与して下さい。
水分補給
下痢が続くと脱水のリスクが高まるため、十分な水を飲ませることが重要です。
水をあまり飲まない場合は慣れたウェットフードを与える、ぬるま湯を少し加えて風味を増す、食べたことのあるチュールを食べさせるなども有効です。
大量に水を飲んで大量に吐く猫もいるので、飲水量は調節しましょう。
ストレスを減らす
ストレスが原因で下痢を起こしているのであれば、静かな環境を整えることも大切です。
住環境の変化(引っ越し、新しいペット・家族の追加など)があれば、フェリウェイ(猫用フェロモン)の使用もおすすめです。
下痢の便がトイレに残っていると不衛生なだけでなく、猫がストレスを感じてしまうため、こまめに掃除しましょう。
自宅でのケアを紹介はしましたが、慢性的に下痢をくりかえしている猫では、家での対処で良化することはほとんどありません。
そのため、早く受診して治療を受けてください。
まとめ
猫は下痢をしない動物です。
もし猫が下痢をしていれば、元気であっても異常だと思ってください。
年に1回だけ下痢が出るくらいであれば問題ないのですが、年に何回も下痢が出るなら問題が隠れている可能性が高いです。
下痢だけど元気だから大丈夫、などということはありませんので、猫の下痢は異常だと知っておきましょう。


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