PK欠損遺伝子がアフェクテッドと言われましたが避妊去勢手術はできますか?
猫でも遺伝子検査が行われるようになり、遺伝子に問題があると解るようになりました。
診察でもそのような質問を受けることが増えてきたので、その一例をご紹介します。
純血種の猫では遺伝子疾患のリスクが高い傾向にあります。
今回はPK(ピルビン酸キナーゼ)欠損症遺伝子を持っているという検査結果が出た子猫さんの飼い主さんからのご質問です。
「ペットショップでPK欠損遺伝子がアフェクテッドと言われ、それを納得して家に迎えました。しかし時が経つにつれ不安になることが多く、ネットで検索したらとても怖くなりました。もう避妊手術をする時期ですが、それで発症するリスクは高いでしょうか?」
このように、遺伝子疾患を持っていることを承知で猫を購入されても、後から不安に思われるのは当然です。
この記事では、意外に多い猫のPK欠損症について、特にアビシニアン、ソマリ、メインクーン、ノルウェージャンフォレストキャットの飼い主さんに知っておいて欲しい知識をお伝えします。
若くして貧血になる純血種の猫
PK欠損症という言葉は、普通に生活していても一度も聞いたことがないでしょう。
「PKはピルビン酸キナーゼの略です。」と言われたところで、「???」と大半の人が思います。
難しいことを抜きにすると、「PK欠損症は貧血になりやすい病気で、遺伝子の異常が原因でおきるものだ」と言えます。
これは一時的な貧血(血がたりない)ではなく、常に血が壊されていく病気なので、この病気が発症してしまうと寿命が短くなってしまいます。
ただし寿命に関してはばらつきがあり、軽症であれば10年以上生きることもありますし、重症であれば4、5年ということもあります。
発症するケースでは多くが生後3‐4カ月で貧血になり始めます。
そのため、純血種の猫で、特にアビシニアンやソマリが若くして貧血になっているのであれば要注意です。
ただし、それ以外の猫種でも異常な遺伝子をもっていることがあります。
現にこの質問を受けた飼い主さんの猫はノルウェージャンフォレストキャットでした。
猫の貧血のサイン
猫は貧血になるとどうなるのでしょうか?という質問をよくされます。
猫は隠す生き物なので、注意して観察していなければ、初期の貧血には気づくことができません。
そのため猫の貧血のサインを知っておくことは大切です。
猫の貧血のサインとして、まず初期段階では元気がなくなり、活動量が低下することがよく見られます。
いつもより長く寝ていたり、遊びに興味を示さなくなるのですが、気づかれないことも多いです。
食欲も少しずつ低下し、好きなフードにもあまり反応しなくなります。
さらに、歯茎や舌の色が通常のピンク色から白っぽく変化することがあり、これは貧血の重要な兆候の一つです。
呼吸が浅くなったり、少し動いただけで息切れしやすくなったりすることもありますが、猫は自分で無理をしないように調節するので、息切れを見かけることは少ないです。
体温が低めになることもあり、いつも以上に寒がる様子を見せることもあります。
貧血が進行すると、さらに動きたがらなくなり、人目をさけるようになったり、お気に入りの場所でじっとしていることが増えます。
さらに重度の貧血になると、ぐったりとして反応が鈍くなったり、立ち上がるときにふらついたりすることがあります。
呼吸が非常に苦しそうになり、酸素不足によって舌や歯茎が青紫色に変色することもあります。
また、貧血の原因によっては、目や歯茎、耳の内側が黄色っぽくなる黄疸が見られることもあります。
<猫の貧血のサイン>
・元気がない
・食欲がない
・呼吸が早い
・人のいない場所へ入る
・歯茎や舌が白くなる
これらのサインがあれば貧血になっているかもしれません。
サインが出るころには貧血は中程度から重度になっていますので、確実に早期に発見するには血液検査が良いでしょう。
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遺伝子疾患は治りますか?
遺伝子に問題がある病気は治りません。
今回のご質問を受けたPK欠損症も、発症して貧血になってしまった場合には治療法はありません。
ただ、遺伝子に問題があるとしても、PK欠損症がごく軽症であまり貧血にもならず、生活に大きな問題が出ないこともあります。
発症に気づかずに10歳を超える可能性もあります。
遺伝子の異常がそのまま表現型(実際の体の仕組み)に反映されるわけではないためです。
このあたりは難しい領域なので詳しくは説明しませんが、まだ猫のPK欠損症については不明な点も多いのです。
今回のご相談では「アフェクテッド」ということで、遺伝子を持っているだけではなく、体に影響が出る可能性が高いという検査結果だったようです。
「キャリア」であれば悪い遺伝子を持っていても発症はしない状態ですので、子孫を残さない、繁殖さえしなければ良いのですが、アフェクテッドでは心配が募ります。
定期的に血液検査を受けて貧血が起きていないかを確認するのが良いでしょう。
<遺伝子検査の用語>
アフェクテッド:遺伝子疾患を発症する可能性が高い、遺伝する
キャリア:異常な遺伝子を持っているが、発症はしない、遺伝する可能性はある
クリア:異常な遺伝子はない、発症もしない、遺伝もしない
遺伝子疾患を持っていても避妊去勢手術をするべきか?
基本的には遺伝子疾患をもっていても避妊去勢手術をするべきです。
なぜなら間違って子猫が出来てしまえば、その病気を持った猫を増やしてしまうため、避妊去勢手術を受けて、その病気の猫を増やさないようにするべきだからです。
ただ、遺伝子疾患によっては麻酔のリスクが高くなるものもあるので、獣医師とよく相談して受けるようにしましょう。
今回のPK欠損遺伝子の場合は、麻酔のリスクが高くなるものではないので、避妊去勢手術を受けることは出来るでしょう。
ストレスも発症するきっかけになる可能性もゼロではないため、その点での麻酔や手術のリスクはあるかもしれませんが、繰り返す発情も猫にとっては大きなストレスです。
まだ病気が発症していないのであれば、手術前検査で麻酔のリスクをみて、獣医師の判断で手術を行うことは可能です。
PK欠損症によって貧血になってしまったら
根本治療はないのが辛いところで、重度の貧血があるのであれば輸血をすることもあります。
これは一時的な効果しかないので、治療とは言い難いところがあります。
脾臓(ひぞう)という臓器で赤血球を壊しているケースが多いので、脾臓を摘出することもあります。
脾臓を摘出することで、赤血球が壊れるスピードを遅くすることができれば良いのですが、摘出しても貧血が進むケースもあります。
よく指示されるのは、安静にして、ストレスをかけない生活を送るように、というものです。
壊れやすい赤血球であるということを、変える方法がないため、効果的な治療法が無いのが現状です。
ペットショップで遺伝子疾患の説明を受けたら
子猫に遺伝子疾患があるという説明を受けても、その場では正確な判断が出来ないでしょう。
まず、何を言われているのか解らないのではないでしょうか?
耳慣れない単語ばかりで、日本語で説明されているにもかかわらず、頭のなかはハテナ?でいっぱいになります。
その場では納得しても、後から調べてみて、病気というものが実感をもって差し迫ってくると、やっと状況を把握したことになります。
ペットショップでは急に遺伝子疾患の説明をされることがあり、その病気は発症すれば治すことができないものが多いと覚悟しておきましょう。
まとめ
今回は耳慣れないPK欠損症という遺伝子の異常がもとになる病気のお話をしました。
遺伝子疾患なんて、あまり無いから大丈夫、ということはなく実は純血種の猫には隠れていることがあります。
遺伝子検査をしていなくても、純血種の猫で若くして貧血になっている時には要注意です。
遺伝子に問題があるからといって、必ずしも発症するということではないですが、もし発症してしまったら治せないものが多いです。
新しい猫を家族を迎えるにあたって、急に遺伝子検査の話や遺伝子疾患の話をペットショップで聞くケースがあると、事前に知っておきましょう。


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